読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

おんなはつらいよ 

世界の国からこんにちは

私たちのティファニーで朝食を

  波長が合うというのはとても不思議な現象だ。

この世界には、いくら長い時間を共に過ごしても会うたびに初対面のような気分になる人が一方、たった数時間過ごしただけなのに、またどこかで会えることを確信してしまうような人もいる。

国籍や年齢も違う。過ごした時間の長さもそれぞれバラバラだけれども、出会いと別れの繰り返しが日常の旅の中で、これからも大切にしたいと思う出会いがいくつもあった。

イタリア人のステフォニアとはロンドンの語学学校で知り合った。

初めて会った時、ウェーブがかった長い黒髪に黒い服を纏い、アイラインばっちりの大きな目と真っ赤なルージュを引いた彼女はとても綺麗でかっこよくて、まるで女優のようだと思った。

ツンとしてとっつきにくく見える外見に対し、中身はとてもシャイで気さくで聖母のように優しくて、とても落ち着いていた。けれども好奇心旺盛でお酒と音楽が好きだったためか、私たちは瞬く間に仲良くなった。

放課後公園でビールを飲み、パブに行ってはビールを飲み、授業最終日は学校の屋上でもビールを飲んだ。私たちの友情はビールと音楽で形成されたと言っても過言ではない。

彼女とは好きなものや大事にしていることがとても似ていた。

だから私がいいと思う場所にはいつも彼女を誘ったし、彼女も色々な場所に私を連れ出してくれた。

今も旅先でグッとくるお店や場所に遭遇するたびに「絶対ステフォニアも好きだろうな」と心の中でよく思う。

二人でジャズハウスへ行ったり、美術館へ行ったり、ミュージカルを見たり、背伸びしておしゃれなバーに行ってみたり。かといえば道端や公園で延々と話し込んだり、笑い転げたり、何もしないでのんびり過ごしたりすることもできる、気を使わないでいられる人。

私は彼女の包容力や誠実さ、人間性をとても尊敬している。なかなかいないこんな人。

感性が似ていて共感できることの多い彼女とは、将来の話も、恋愛の話も、難しい話も、どうでもいいくだらない話も全部できた。

お互いにロンドンに来る決断をしていなければ、一生出会うことはなかったのだと思うとそれだけで旅に出たことは大正解だったと思える。

 

今回初めて訪れた彼女の住むイタリアは本当に美しい国だった。多くの人が口を揃えて「良い場所だ」と言うことに、大袈裟ではなく大いに納得した。

ロンドンではラッキーなことにヴェネチアフィレンツェ、ローマと各都市に友人ができたので、イタリアの旅は友人を巡る旅でもあった。

彼女たちから最高のもてなしを受けて、この国がますます好きになった。

美味しいご飯を食べてワインなんか飲んじゃって、絵葉書のような景色の中を歩けば、誰もがこの国に魅了されるだろう。衣食住すべてにおいて秀でている。

出会った旅人たちも芸術や建築や食に精通した人たちが多く、面白かった。

この美しい土地から数ある芸術や文化が生まれてきたことは、もう必然としか言いようがない。

ナポリを見て死ね」という言葉があるが、「いいえ、見てしまったらもう死ねない!もう一度この国に戻るまでは」とご返答したくなるくらいだ。

f:id:junoonuj:20170424033410j:plain

f:id:junoonuj:20170424033340j:plain

f:id:junoonuj:20170424033128j:plain

f:id:junoonuj:20170426100301j:plain

 

f:id:junoonuj:20170426100147j:plain

f:id:junoonuj:20170426101712j:plain

f:id:junoonuj:20170426102804j:plain

f:id:junoonuj:20170426102953j:plain

f:id:junoonuj:20170424033415j:plain

f:id:junoonuj:20170424035027j:plain

f:id:junoonuj:20170426100239j:plain

f:id:junoonuj:20170424033048j:plain

f:id:junoonuj:20170426100215j:plain

f:id:junoonuj:20170426100048j:plain

f:id:junoonuj:20170426102541j:plain

f:id:junoonuj:20170426102402j:plain

f:id:junoonuj:20170426102450j:plain

f:id:junoonuj:20170424033227j:plain

f:id:junoonuj:20170425000857j:plain

f:id:junoonuj:20170424034840j:plain

f:id:junoonuj:20170426095843j:plain

f:id:junoonuj:20170426102318j:plain

f:id:junoonuj:20170424034555j:plain

f:id:junoonuj:20170424034616j:plain

 イタリアを代表とする観光都市でそれぞれの友人と再会した後、私はステフォニアに会うために北イタリアの「レッジョ・エミリア」という小さな街へ向かった。

再会した瞬間から話が止まらない。ロンドンで別れてから今日までの二ヶ月間で起きた出来事をお互いにものすごい勢いで喋り尽くした。

大学を卒業したばかりの彼女は、卒業と同時に自分のアパートを引き払い、大学時代の友人宅を転々としていてスーツケース暮らし。

しかし今回短期間で借りられるアパートを探してくれて、私たちはそこで一週間過ごした。

帰国した彼女は、その時ちょうど就活真っ只中。そんな人生の大事な岐路に立っている時にも関わらず、私が来ることを歓迎してくれる彼女の懐の深さ。そして自分のずうずうしさ。

前々から聞いてはいたが、彼女はミラノで出版や広告の仕事に携わりたいのだという。

昨今どこの国でも職探しは困難を極めるが、イタリアは失業率も高く、特に仕事を得ることが難しいという。ましてや出版やメディア業界は人気の職種だ。

そんな中、エントリーシートをひたすら送っては面接のアポイントが来るのを待つ日々に彼女は疲れ果てていた。だから私が来るのは気分転換になるなんて優しいことを言ってくれた。

 レッジョ・エミリアは、パルマボローニャ、そしてミラノにも近く、連日彼女は私を色々な場所へ連れて行ってくれたけど、二人でいればお酒を飲みながらひたすらお喋りしているだけで時間は過ぎていく。だから観光名所なんてそっちのけ。でもそれこそが私たちらしい過ごし方。

彼女の友人たちとも沢山会った。皆が彼女の人間性にとても惹かれていて、大切にされていることが伝わってくる。大好きな友人に大切な人が沢山いることは、私を幸せな気分にさせた。

f:id:junoonuj:20170424033717j:plain

f:id:junoonuj:20170426101547j:plain

f:id:junoonuj:20170424034302j:plain

f:id:junoonuj:20170426101047j:plain

f:id:junoonuj:20170426101557j:plain

f:id:junoonuj:20170426101439j:plain

f:id:junoonuj:20170424033749j:plain

 

 最終日、私たちは日帰りでミラノへ行った。早朝に出発し列車で2時間。

到着したミラノは大都会の忙しい日常が広がっていた。

洗練された街に洗練された人々が行き交う中、煌煌と輝く白い巨大なドゥオモが貫録を放ちながら建っているのを見た時、胸がときめいた。やっぱり大都会が大好きだ。

彼女は7年前に大学に通うため、故郷の南イタリアからレッジョ・エミリアに上京してきた。その頃から時々ミラノへ来るたびに訪れる場所があると言う。

「ここは私にとってのティファニーなんだ」そう言って連れて行ったくれたのは、ミラノの中心地に佇む老舗デパートだった。

ティファニーで朝食を」でオードリー・ヘップバーンが演じたホリーにとってのティファニーのように、女性なら誰しも自分にとってのティファニーがあるのではないだろうか。

勇気が欲しい時、新しい自分になりたい時、私たちのティファニーはそっとエスコートしていつも元気をくれる。

上京したばかりの頃は、お金が無いからここに来ても何も買えないという現実を突きつけられ、悲しい気分になって立ち去ることばかりだったという。

しかし年齢を重ねるにつれ、仕事で得た少しばかりのお金で小さい小物や口紅など、何か小さなものを一つだけ買って帰れるようになった時、この場所が自分にとってのティファニーになったそうだ。

その頃からいつかミラノに住んで働くことが彼女の夢になった。

子供の頃には味わえなかった大人の楽しみを私たちは少しずつ知り始める年齢になってきている。大人になることで失ったものも沢山あるけれど、失ったもの以上にもっともっと楽しいことを知り始めている。

先日彼女は、初めてここで念願だった靴を買ったそうだ。とても奮発したらしい。

その靴は今、彼女の仕事探しの相棒になっている。ミラノで買ったその靴が彼女をミラノへと導いてくれる日はそう遠くないだろう。

二人してうっとりしながら靴や洋服を手にとっては、可愛くない値段を見て無言で元に戻すという行為を何度も繰り返し、私たちはため息混じりに屋上へと向かった。

いつも一通り見終わると、景色を一望できる屋上の喫煙所で一服してから帰るのが定番コースだそうだ。

彼女にもらった煙草を一本吸いながら目の前に広がる大都会ミラノの景色を眺め、私は漠然と日本に帰国した後のことを考えていた。

最終列車ギリギリまでミラノを堪能した。彼女がこの街を好きなように、私もこの街が好きだと思った。忙しい場所だけど、可能性も刺激も希望もここには詰まっている。

いつか彼女がミラノに住むことになったら、またここへ来よう。

彼女とは、また何度でも会える気がしている。イタリアでだって、日本でだって絶対に。

f:id:junoonuj:20170426101019j:plain

ちょうど二ヶ月ほど前、ステフォニアから連絡がきた。

「仕事が決まり、ミラノで働き始めた」と。

ミラノは超最高だけど、超大変!!!混乱してる!!!」と泣き笑い顔の絵文字と共に送られてきたけれど、私にはわかる。

彼女のこれからがもっともっと楽しいものになっていくことを。

だってこんなにもあの街が似合う女はいない!

ミラノの街角で煙草を吸いながら、誰かと電話している彼女の姿が浮かんだ。

最高にかっこいい彼女に似合う街はやっぱりここしか無いと思う。

近況報告がまるで自分のことのように嬉しかった。

彼女は前進した。さて次は私の番だ。

日本に帰ったら私もまた新しい生活をスタートさせなければならない。

どうなるかわからない。勤労こそが美徳であるようなこの国で、散々遊び歩いてきた人間に社会は甘くないことくらい想像がつく。

旅に出たところで別に大きく何かが変わるわけじゃない。これっぽっちもすごいことなんかしていないし、履歴書に追加できることなんか何一つない。

けれども道中で出会った世界中に散らばる友人たちからもらった大きな刺激が、確実に今の私を動かしている。

彼や彼女たちと再び会える日を夢見て、私は自分の在るべき場所をもう一度日本で探そう。

そして近い将来、ステフォニアが日本へ遊びに来たら今度は私のティファニーへ連れて行こう。

シックな服を着て、ハイヒールを履いて、私の大好きな東京の街を一緒に歩きたい。

彼女とだったらお気に入りのジャズハウスも、ガード下の渋い居酒屋も、おしゃれなデパートも、活気溢れる下町散策も全部がもっともっと楽しいはずだ。

その時のことを想像してみたら、びっくりするほど未来は明るい。